第6番 真田十八屋敷

小田床(下田南)

天草町下田南地区は、昔から小田床(こざとこ)と呼ばれていた地域です。
そこ小田床の西嶋家には江戸時代初期から代々伝わる家伝書がありますが、そこには秘められた天草の歴史が記されています。
西嶋家の仏壇に手を合わせると、ご先祖様への深い感謝と奇跡の歴史が紐解かれます。

仏前に手を合わせる意味

西嶋家の御仏前に手を合わせる由美かおるさん

どこの家にも昔から仏壇がありますが、西嶋家の仏壇に手を合わせると、特別な感慨に打たれます。
 それは、いま自分が生きていることに対する奇跡の実感です。
 自分の命がここにあるのは、一代前の二親から頂いた命のお陰ですが、二代前の親は父方に2人、母方に2人と合計4人の親が存在しています。さらに三代前にはその倍の8人の親がいます。こうやって十代遡ると以下になります。
 三代前…   8人
 四代前…  16人
 五代前…  32人
 六代前…  64人
 七代前… 128人
 八代前… 256人
 九代前… 512人
 十代前…1024人
 十代前までのご先祖様の人数は、全部で1024人となります。

自分のルーツは?

御仏前

一代の平均年数が25年とすると、十代前のご先祖様は約250年前の時代に遡ります。
 その時、1024人のご先祖様がおられたのですが、どの方が欠けても今日の自分の命はありません。 
 自分がここに生きているのは、ご先祖様に生かして頂いた命だということに他なりません。
 人は自分の力で生まれてきたのではなく、連綿と続く命の営みの中で、いま、ここに生かして頂いています。
 そう考えると、人類はみんな兄弟姉妹であることが分かります。
 家に仏壇があったり、祭壇がありますが、それは決して特定の宗教宗派のためのものではありません。
 自分の命が今日ここにあることを、ご先祖様に感謝する扉が仏壇という形になっているだけです。
 古今東西問わず、人として生まれてきたら、ご先祖様に感謝の祈りを捧げるのは、至極当然の自然な行いといえます。

日本の歴史がひっくりかえる話

西嶋家の古文書

自分のご先祖様がどのような生き方をしてきたかは、口頭伝承や記録に残っていないとほとんど分からなくなります。
 しかし、西嶋家では、江戸時代初期から当主がその時代の世相や暮らしについて書き記している古文書があります。
 その古文書には、とんでもない史実が記されています。なんと、大坂夏の陣以降、薩摩から天草へ逃れてきた真田幸村の家臣たちの足跡が記されていたのです。
 これまでの歴史書では、豊臣秀頼と真田幸村は大坂夏の陣で亡くなったことになっています。しかし、西嶋文書によると、大坂夏の陣で豊臣秀頼と真田幸村とその家臣たちは、太閤秀吉に恩義を感じた島津公により大坂湾から薩摩まで船で救い出されたというのです。
 その後、秀頼と幸村は薩摩で亡くなりますが、他の真田一族十八組みは、天草島原一揆前に天草の小田床に逃れてきたと、驚くべき史実が記されているのです。 

歴史の真実とロマン

真田幸村

天草の歴史には、多くの謎があります。それは、江戸から遠く離れた日本最西端の孤島で、海外貿易が盛んな上、キリシタンの文化や、戦国時代に徳川方に負けた側の豊臣方の大名の家臣たちが身を隠していることから、幕府側の正史とは異なる秘められた歴史が埋没しているからです。
 例えば、五和町御領の芳證寺には、同じように大坂夏の陣で切腹したことになっている、明智光秀の孫で、細川ガラシャの次男興秋が僧侶となって密かに暮らしていた伝承が遺っています。これは、細川家十七代護貞当主が、昭和50 年代に、芳證寺を正式参拝されたことで明らかになりました。
 正史とは、時の権力者であり体制側によって作られた歴史で、私たちは通常それを常識として学んでいますが、例えばアメリカインデアンの歴史が侵略した西洋人によって消されて、書き換えられてしまったように、日本の歴史にも消されてしまった歴史は数多くあると思います。西嶋文書はその一つであり、貴重な文献です。

温故知新・過去を知り未来を見つめる

西嶋家の古文書を閲覧する

自分が、いま、ここに存在している基には、ご先祖様の存在がありますが、普段一般人はそのことを気にも留めません。
 しかし、どんなに忘れ去られても確かに存在し、その時代を精一杯生き抜いたご先祖様のお陰で、今日の自分が存在していることは紛れもない事実です。
 過去・現在・未来と流れる時間の中で、命を与えて頂いたご先祖様にあらためて感謝することの大切さを痛感します。
 西嶋家のように過去の歴史が文書として遺っていると、実感としてご先祖様の有難さを感じますが、そうでなければ漠然とした感謝に終わってしまいます。
 その意味で、いま現在自分が知れる範囲でご先祖様のことを調べて書き記し、未来に遺すことも大切なことだと思います。

⇒第7番 イルカと自然の恵み